徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「だれかの木琴」―心の奥底に抱える孤独から解放され空虚な魂が共鳴するとき―

2016-10-31 16:00:00 | 映画


 心が狂うとはどういうことだろうか。

 心が囚われていくとはどういうことだろうか。
 その思いを何と呼べばいいのだろうか。
 虚空に解き放たれた、孤独な魂の共鳴の物語だ。

 「もう頬杖はつかない」(1979年)、「絵の中のぼくの村」(1936年)、「酔いがさめたらうちに帰ろう」(2010年)などで知られる、名匠東陽一監督上荒野の同名小説をもとに、自分の行動に戸惑いながらも、自分自身の姿を探し続ける孤独な女性の姿を、描いた。
 原作の骨格を生かしながら、何とも不思議な味わいの作品が登場した。






夫の光太郎(勝村政信)と娘のかんな(木村美言)と郊外に引っ越してきた、普通の主婦小夜子(常盤貴子)は、新しく見つけた美容院で少し髪を切る。

海斗(池松壮亮)と名乗った若い美容師から、その日のうちにお礼の営業メールが届く。
それに返信したことから、小夜子の日常は一変する。

小夜子は自分でもわからない衝動に駆られ、何度もメールを送っては頻繁に店を訪れ、海斗を指名するようになる。
ついには、海斗のアパートを探し当て、呼び鈴を強く押してしまう。
海斗へのストーカー行為がエスカレートするほどに、小夜子は生き生きと輝きを増していく。
やがて、小夜子の家族や海斗の恋人唯佐津川愛美)を巻き込んで、二人がたどりついた先は・・・?。

どうしようもなく心が囚われていく。
主婦の小夜子は次第に行動をエスカレートさせていくのだが、それを、平凡な主婦の心の奥底を覗くようなカメラワークでで追っていく。
幸せに見える主婦の心にある空虚感を、常盤貴子が抑制のきいた演技で表現する。
彼女の地なのか、小夜子なのか、見分けのつかないような演技がすこぶるよく、高く評価したい。
池松荘亮も彼女のストーカー行為に困惑しながらも、誠実に向き合う青年を好演しており、二人は息の合った適役といった感じだ。
このキャスティングはとてもいい。

映画はありきたりのサスペンスとはならない。
このドラマに見るヒロインの行為も、断罪するほどでもない。
小夜子の行為は狂気というほどのものではなく、自ら抱える孤独や虚しさに無自覚で、むしろ自分を持て余しているように見える。
いや、見えるのではなく事実そうなのではないか。
日常と非日常の境界を行き来して、男女のリアルな孤独を淡々と描いて見せる。
特別ドロドロした愛憎劇や濡れ場があるわけでもないし、凄惨な事件が起きるわけでもない。
怖さを感じるとすれば、むしろそれは、日常の中に潜む小さな狂気そのものだ。
それをまた、はっきり狂気と言い切ってよいものかどうか。

小夜子の記憶の中で、ある家から聞こえてくる木琴の音は、小夜子の心模様の象徴か。
小夜子の内心は言葉ではっきりと語られることはなく、彼女の分別や焦燥とともに、何かが絶えず変化しているようなたたずまいを感じさせる。
まだまだ健在、81歳の東陽一監督作品「だれかの木琴」は、監督自身の女性や人間を見る眼差しの深さ、優しさが表われているように思われる。
どこかとらえどころのない作品と見えるが、それがこの作品の良さでもある。
この映画のラスト、超自然の動きを見せるブランケットが小夜子をそっと包み込むシーンは、主人公に寄り添う優しさと清新な感性が感じられる、秀逸な場面ではなかろうか。
いい作品だ。
余談だけれど、主演の常盤貴子の次回作は大林宣彦監督の作品だそうだ。
大林監督は78歳、東監督は81歳、いずれにしても高齢監督の作品から目が離せそうにない。
      [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点


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2 コメント

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一時期でいえば (茶柱)
2016-10-31 22:23:24
「心の闇」というものでしょうか。闇とか書くと何だか殺人だの何だのになりそうですが、そういうのではない「闇」って結構ある気がするのですよね。

人には。
この表現はは・・・ (Julien)
2016-11-03 17:59:26
非常に意味深な言葉ですね。
言葉というか語彙といいますか。
かなり広範囲にわたる、深い意味を持っているように感じます。
抽象的ですよね。ちょっと都合のいい表現かもしれません。

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