徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「草原の河」―生と死の無垢と残酷を謳い上げる遥かなるチベットの叙情詩―

2017-07-15 18:00:00 | 映画


 チベット人監督ソンタルジャによる、日本の初劇場公開作だ。
 娘、その父、そして祖父・・・、チベットを舞台に、家族三代のそれぞれの心情を峻烈な映像で描く。
 美しい山々、風俗、習慣、その世界のどことも変わらないリアルな家族の、生身の人間の表情に迫っている。

 誠実さの溢れる映画である。
 草原で生活を営む一家の日常と心象風景を、6歳の少女の眼を通して、繊細に描き出している。
 小さな挿話の積み重ねなのだが、極力説明を排し、素朴で簡素な映像に語らせる。
 全編にわたって、豊かで複雑な、それでいて純粋な感情がみずみずしく息づいている。
 好感触の作品だ。
 主役を演じたヤンチェン・ラモ(撮影時6歳)は、上海国際映画祭アジア新人賞、史上最年少の最優秀女優賞受賞した


冬のチベット草原・・・。
ヤンチェン・ラモは6歳の幼い女の子だ。
父親のグル、母親のルクドルと暮らしている。
ヤンチェンは、母親が祖父を嫌っているのを不思議に思っている。
グルは過去の出来事から、自分の父親にわだかまりを持っている。
祖父の具合が悪いと聞いたルクドルの勧めで、グルがヤンチェンを連れて嫌々見舞いに出かける。

一家が夏の放牧地に移動するとき、ヤンチェンの心が揺れ動く。
ルクドルが妊娠したことで、いまだに母親の乳をねだる彼女は、母親の愛情を独占したい。
彼女は、赤ちゃんができたのは天珠(お守り)のせいだと聞いて、それを隠してしまった・・・・。

グルは父親との確執を抱いており、ヤンチェンは母親の愛情に不安を抱いている。
作品では、一家の放牧生活の四季を通して、二人の立場と感情を、丁寧に描き出していく。
カメラは近くから、ときに遠くから、静かに彼らを追いながら、家族の絆を紡いでいく。
映画はドラマなのに、これはドキュメンタリーのようだ。

少女ヤンチェン・ラモも父親のグルも、ソンタルジャ監督の親戚で、演技の経験は全くない素人だ。
撮影をしながら脚本を書き進めたそうで、事前には簡単なプリントだけが用意された。
でもそれは大人の見た子供の世界で、撮り始めてからやっと、ヤンチェン・ラモの本当の心のうちに触れることができたのだ。
可愛がっていた子羊を群れに返せと言われては泣き、母親のおっぱいをねだっては泣き、よく泣く子ではあるのだが、その目は怖ろしいほど研ぎ澄まされていて瑞々しく、その表情はあどけない少女なのに、凛然としている。
この少女の表情と眼差しに、思わず凄い!と思った。
これは、この素人の少女ヤンチェン・ラモが持っている、まさに天性のオーラだ。
これを見ただけでも、この映画を観てよかったと感じた。
機会があれば、チベットの映画をもっと観てみたいものだ。

牧畜を生業(なりわい)とする両親と暮らしながら、子羊が狼に襲われたり、成長した羊が突然亡くなったり、いろいろな挿話で綴りつつ、チベットの広大な大地に繰り広げられる豊かな詩情は、それだけで十分鑑賞に耐えうるものだ。
登場人物たちの来ている衣服も、衣装部とかが用意したものではなく、みんな普段から身に着けているものだそうだ。
チベット民族の、生活なり心の風景なりを、この中国映画「草原の河」は、記録として残そうとする意味合いもあるのだろう。
心に沁みて残る作品だ。
         [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回は日本=フランス=ドイツ合作映画「 光 」を取り上げます。

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2 コメント

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チベットというと (茶柱)
2017-07-16 00:16:04
どうしても日本のような平和主義を掲げながら国を失ったことの方が気になりますね。
なぜ平和でいようとするだけで国を失うのでしょうね。
いまのチベットは・・・ (Julien)
2017-07-17 15:26:29
時代の激変の中で、経済建設とグローバル化が進み、民族が継承してきた民間文化は、破壊され失われつつあるようです。
住民の心は、物質的な発展の速度に追いついてゆけなくなっているそうです。
チベットについて、今は最良の時代であり、また最悪の時代でもあるという、英国の作家ディケンズの名言がありますが、あたかも今の時代を象徴する最適な言葉かもしれません。
この作品は、改革開放以後の中国の現状を背景に描かれているようです。

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