徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「淵に立つ」―崩れゆく家族に静かに燃え上がる人間の罪と罰―

2016-10-15 13:00:00 | 映画


 今年5月のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で、審査員受賞した。
 「ほとりの朔子」(2014年)、「さようなら」2015年)と、映画祭を華やかに彩ったあの深田晃司監督が、今回は人間の内面を深く抉る、異色の家族ドラマを誕生させた。

 或る闖入者によって、家族3人の平穏な暮らしが変容していく。
 その過程と行き着く先を、スリリングに描いた作品だ。
 この映画の、心にずしりと残る余韻をどのようにたとえたらよいものか。











郊外で金属加工工場を営む鈴岡利雄(古館寛治)と妻の章江(筒井真理子)、それに10歳の娘の蛍(篠川桃音)3人家族のもとに、利雄の友人という八坂草太郎(浅野忠信)が現われる。
八坂は、最近まで殺人罪で服役していた男だったが、利雄は章江に断わりもなくその場で八坂を雇い入れ、彼は住み込みで働くことになった。
利雄は自宅の空き部屋を提供し、章江は突然の出来事に戸惑う。
だが、礼儀正しく、敬虔なクリスチャンである章江の教会活動に参加したり、蛍のオルガンの練習にも喜んで付き合う八坂に行為を抱くようになる。

八坂に負い目がある利雄は、家族の一員のように振る舞い、妻と親密な様子の八坂を見て見ぬふりをする。
そしてある時、八坂は一家に残酷な爪痕を残して、突然姿を消した。

8年後、八坂の行方は知れず、利雄は興信所に調べさせているが、一向に手がかりはつかめない。
工場では、古株の従業員の設楽篤(三浦貴大)が辞めることになり、代わりに山上孝司(太賀)が新人として入ってくる。
だが、皮肉なめぐり合せにより、八坂の消息がつかめそうになった時、利雄と章江は再び心の闇と対峙することになるのだった・・・。

一見平和な家族が、ある異分子の侵入によって、姿かたちを変えていく。
とにかくはっきりしないことが多い。
八坂の過去、鈴岡の過去、どことなくぎごちない鈴岡夫婦の間柄、八坂の真意も、蛍を巻き込む「事件」の真相など、何もかもが曖昧のまま放置される。
これは、敢えて観客を惑わせようとする深田監督の演出か。
想像と思索を、究極なまでに観客にまかせ、不安をあおる。
不気味な深淵が横たわっているようだ。
偶然と運命が交叉し、優しさと暴力が交じり合う。

深田監督にとって、ここでは家族は不条理だ。
そして、日本・フランス合作映画「淵に立つ」では、何を考えているのかわかりずらい人たちが登場し、先の読めない言動を繰り広げる。
観ている方は様々なシーンで、大なり小なり不意打ちを食らうわけだ。
ドラマはダークな心理スリラーのようだ。

妻の章江が、物語の前半と後半の8年後でがらりと変貌しているさまに、凄さが感じられる。
さすが筒井真理子、ベテランの演技力だ。
鈴岡夫婦の間に波紋を起こす張本人が八坂の存在で、浅野忠信演じる八坂が幅広い善悪を抱えた謎めいた男で熱演し、一方でともに舞台俳優の古館寛治筒井真理子は、平凡な小市民を装いつつ、秘密を抱えた男女を陰影深く演じている。

当たり前の家族の脆弱さが描かれているが、登場人物の誰もがそれぞれ秘密を抱えている。
それぞれが物静かなたたずまいで、内に何を秘めているのかわからない。
この作品はドラマの初期設定から、どんどん悲劇を深めていく。
ドラマのプロセスは、圧倒的にスリリングで、テンポもまあ申し分ない。
揺れ動く登場人物たちの、崩壊と再生、理性と衝動、善意と悪意、罪と罰を重ねたその果てに、何があるのか。
深田晃司監督、1980年生まれ、世界の映画シーンにその名を刻み続ける彼の最新作が、30代の若さでカンヌ常連組の仲間入りを果たした!
河瀬直美監督「萌の朱雀」 (1997年)以来、20年ぶりの快挙である。
これからますます期待の高まる監督だ。
         [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はフランス映画「ミモザの島に消えた母」を取り上げます。

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2 コメント

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サスペンス (茶柱)
2016-10-15 22:50:49
なんですね。
映画は色々あって楽しいですね。
いろいろな映画が・・・ (Julien)
2016-10-18 17:12:27
生まれてきますが、サスペンスもの、心理劇的なもの、スリラーとか、結構楽しませてくれますね。
自分の好みに合った作品に巡り合えた時は、何にもましてうれしいものです。
これが、なかなか難しいのですが・・・。はい。

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