徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「八重子のハミング」―介護の現実を温かく見つめ誠実一途に生きたある夫婦の物語―

2017-05-17 13:00:00 | 映画


 若年性認知症の妻の介護記録をしたためた、陽(みなみ)信孝の同名原作を佐々部清監督が映画化した。
 人は自分の死はもとより、大切な家族の死を意識した時、何を思うであろうか。

 誠実と優しさが伝わってくる夫婦の物語である。
 迫りくる死の影を見据えながら、残された日々をともに歩む姿から、闘病、介護、家族の愛の形が浮き彫りにされていく。
 これは、人間の〈尊厳〉を描いた作品だ。



山口県萩市・・・。

元教師で神主をしている石崎誠吾(升毅)は、今は市の教育長を務めている。
彼は、認知症が悪化しつつある妻八重子(高橋洋子)を介護している。
八重子はひとりで外を徘徊するようになり、車にひかれそうになって、近所の主婦に助けられる。
誠吾は周囲の人々から非難される。
誠吾は仕事をきっぱりと辞め、残された日々を妻と歩むことにする。

夫の誠吾は、すでに記憶を亡くした妻といつもの川沿いの散歩道を行く。
音楽教師だった八重子は、夫が口ずさむ歌を聴くと、笑顔を取り戻すのだった。
介護12年、誠吾は八重子に長いお別れをする。
・・・八重子の死後、誠吾は妻の介護で経験したこと、感じたことを講演して歩く。
このドラマは、その誠吾の講演の部分から幕を開け、過去と現在を交錯させながら夫婦の軌跡を綴っていく。

この作品「八重子のハミング」佐々部清監督は、過酷な介護の実態を追うのではなく、身近な夫婦や家族のありかたを優しく問いかける。
それも、人々に支えられながらの妻の介護がどういうものであったかを、静かで優しい眼差しで描いている。
原作者が暮らす山口県萩市の街並みを背景に、夫婦の壮絶な日々がリアルに再現される。
とくに八重子を演じる高橋洋子は、1953年生まれのベテランだが28年ぶりの映画出演だそうで、静かなる怪演とでもいうべきか、鬼気迫る演技が胸を打つ。
想い出の歌に反応して微かに口ずさむところなど、夫婦に迫る最後の日々を幸せそうに見せる。
夫役の升毅も渋くて力強い演技で、二人そろって自然体で演じているのは好感が持てる。
暗く深刻になりがちな題材に、温もりを持たせて見せるあたり、工夫を凝らした丁寧な作品となっている。

夫の誠吾も、実はがんを患っている。
その誠吾が、食事はもちろん、トイレの介護も必要な妻の面倒をつきっきりで見るのは、目の前にいる大きな赤ちゃんを介助するようなものだから、もうそれは涙ぐましいほどだ。
笑える話ではない。
大変なことだ。
しかし、これが現実なのだ。

高齢化社会が進む中で、いま人々は自分たちの老後をどのように見据えていったらよいのか。
認知症の人々を優しく見守っていく社会は、この映画のようでありたいが、果して・・・?
切なく、辛いドラマである。
だからといって、絶望ばかりではない。
人間信頼の希望は生きている。
周囲の人々の温かい眼差しは必要だ。
老々介護を続けながら迎える、最期の時・・・。
この作品に見る二人はとても幸せそうに見えるが、いま同じような境遇に生きる人々が、すべて幸せな最期を迎えられるかどうか。
それは極めて難しい問題だろう。

8ミリフィルムの中でハミングする八重子は、平成の「千恵子抄」のようで、深く考えさせられる映画だ。
         [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回は台湾映画「百日告別」を取り上げます。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
認知症は (茶柱)
2017-05-17 23:12:20
大変ですよ。私なんかはまだ、年に数日様子を見る程度ですからまだいいのでしょうけど、実際に毎日介護をするのは本当に。
ほんとうですね・・・ (Julien)
2017-05-20 13:51:56
もはや今の時代、決して他人事ではありません。
私とて同じです。
家族がなるか。
自分が介護される側となるか、
どちらにしても、大変なことです。
人間、避けて通れない関門ですね。

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