「冬の小鳥」(2009年)でデビューした韓国系フランス人のウニー・ルコント監督が、6年ぶりに発表した長編第二作である。
自分を産んだ母親を知らないまま大人になった女性の、母親探しの物語だ。
前作は、9歳で韓国の養護施設から養子としてフランスに渡った、自身の体験による映画で注目されたが、今回の「めぐりあう日」の主人公も、親に捨てられた30代の女性の話だ。
同じように養子として育ち、親子の戸惑いや葛藤、和解といった、女性の複雑な感情をドラマは繊細かつ丁寧に追っている。
エリザ(セリーヌ・サレット)はパリで理学療法士として働きながら、夫と8歳の息子ノエ(エリエス・アギス)とともに暮らしていた。
養母の下で育った彼女は、実母について調査するが法律に阻まれ、自分が生まれた港町ダンケルクにノエを連れて引越し、実母探しを始める。
一方ノエが転校した学校で、給食や掃除などの仕事をする中年のアネット(アンヌ・ブノワ)は、母親と同じアパートで独り暮らしをしている。
そんな彼女が転倒し背中を痛めたことから、エリザの治療を受け、やがて二人は親しくなる。
理学療法士のエリザは、マッサージのように患者の身体に直接触れるうちに、安らぎの入り交じった特別な気配を相手に感じるようになる。
そのうち二人はそれぞれの思惑から、心を掻き乱されるようになり、エリザは第二子を妊娠するが今は産めないため中絶する。
アネットは、エリザが養子であることを知り、自分の過去を明かす決心をする。
そして、二人が本当の親子であることが判明するのだが・・・。
原題は、「あなたが狂おしいほどに愛されることを、私は願っている」。
作家アンドレ・ブルトンが著書「狂気の愛」で娘にあてた一文だ。
ルコント監督にとって、この言葉に25歳の時に出会って以降、ずっと人生の支えになるフレーズだったと語っている。
今回の6年がかりの映画製作の過程でも、力を与えられたという。
何にでも、「触れる」ということがこの作品では丁寧に描き出されている。
アネットは往診を重ねる中で、エリザが自分の娘であることに早くから気が付くが、このあたりの話は偶然過ぎていかがなものかと気にはなったが・・・。
ドラマの主軸は、主人公エリザと産みの母親との邂逅なのだが、同時に親子三代の物語でもある。
過干渉の母親ルネ(フランソワーズ・ルブラン)と彼女から独立できない中年の娘アネット、実の母親であるアネットと娘のエリザ、そして夫との関係がうまくいかず、自分のルーツを求めるあまり時おり情緒不安定になる母親エリザと、思春期に差しかかる年頃の息子ノエという、三世代の母子の風景が浮かび上がる。
親子や夫婦間の問題に、移民関係を絡めながら、エリザがどうして養子に出されたのか、謎が展開される。
ウニー・ルコント監督のフランス映画「めぐりあう日」は、出自に悩み乱れる心を鮮やかに描きつつ、通俗的なメロドラマとはならずに、抑制のきいた作りで、作品全体に知性を感じる。
決して単なる母子の再会物語ではない。
フランス屈指の女性撮影監督カロリーヌ・シャンプティエは、迷いから抜け出せない主人公の心の揺れとともに、曇り空のダンケルクの街並みや海岸、橋、運河など街の景観を、エリザの心象風景のように透明感のある映像で美しくとらえている。
奇跡的に再び交じりあった道は、またそれぞれの道へと進み出すことになる。
深い余韻の残るラストシーンである。
映画は前作と合わせて、最終的には三部作が予定されているらしい。
現在シナリオを執筆中で、来年撮影を目指しているといわれる。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
次回はイタリア映画「人間の値打ち」を取り上げます。
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中だるみなどよくありません。
次へ進むたびに、作品そのものに「進化」がなくてはいけませんし、独立した一本として鑑賞に十分耐えられることが必要でしょう。