白菜

「外に出たいぞ。」


「出せコノヤローっ。」




日曜日、太陽の光が暖かかったので
お外出たがりダンテを抱っこして
ベランダで日向ぼっこをしていたところ、
大家さんの旦那さんが庭に出てきた。

両腕に大量の白菜を抱えている。
先週に引き続き、漬物の仕込をはじめるのだろう。


「こんにちはぁ。」

「おー、猫ちゃん大きくなったなぁ。
　うちの奥さん楽しみに外から見てるよ。」


旦那さんは、いつもむっつり顔をしているが、
ダンテの事になると嬉しそうな表情をする。


「ちょっと待ってな、白菜あげるから。
　今美味しいの持ってくるからさ！」

「え！？いいですよいいですよそんなっ。」



制止を振り切り、
あっという間に庭の向こうへ消える旦那さん。

おぉーい奥さぁん、猫の人に白菜あげるぞぉと
大声で叫んでいるのが聞こえる。

猫の人って・・・。

しばらくすると、漬物の塊をむんずと握って戻ってきた。
しずくがポタポタ落ちている。



「ほら。手ぇ出して！」


慌ててダンテを片手で抱きかかえ、空いた手を
差し出すと、漬物をびちゃりと手渡された。



人と素手で加工食品のやり取りをした経験に乏しいオネエチャン、
部屋に入り呆然と立ちすくむ。
見かねてオニイチャンがボウルを差し出してくれた。





我に返り、お礼を忘れたことに気づく。
手を洗って再びベランダへ。



「ありがとうござ・・」

「待ってて、今奥さん呼んでくるから
　猫見せてやって！」

話し半ばでまたも取り残されるオネエチャン。
しょんぼりである。



白菜を塩もみしていたらしい大家さんが、
手を休めてダンテを見に来てくださった。



「お名前なんていうの？」

「ダンテです」

「ああ！哲学者の。おい奥さん、お前んとこの妹の猫、
　ニーチェっていうんじゃなかったか？」

「あらまあカワイイ！ダンテちゃーん」

「ダンテ君今日はお目目がキラキラしてるねぇ
　お母さんがいて嬉しいんだねぇ」

「いっつも鳥を見てお口もごもごしてるのよ？
　ほらこうやってね。もごもご（と真似してみせる）」



お二人して思い思いにお喋りを始める。



ご親戚の方やお客さんなど、猫好きな人を
庭に通してダンテを見せている事。
（ブラとかパンツとか、めっちゃ干したまま
　仕事出てるんですけど大丈夫ですか？）


何枚も写真をとって現像に出していて、
出来上がったら焼いてくださる事。
（そのパンツとか写っちゃってませんか？
　そもそもそんな写真現像してもらえるんですか？）


ご夫婦が庭を行き来する度、
キャットタワーに登って様子を伺う事。


夕方になると寂しそうにしている事。



「可哀想だからさ俺が家に入れてやれっていうんだけど
　コイツは駄目って言うんだよ」

ちょっとまてまて。
留守中に入られても困ります。
せめて部屋を掃除してからにしてください。（え？いつもしとけって？）

「あたりまえでしょ。」

さすが大家さん。ナイス助け舟。

「でもねぇホントに可哀想なのよ？
　うちにも猫ちゃんいるから寂しくないだろうし」

って、アンタもダンテの面倒見たいんかいっ。



そういえば子供の頃、外出時に雨が降ると
お隣さん同士で洗濯物を取り込んでいた。

このご夫婦にはそんなご近所付合いの感覚なのかもしれない。
びっくり発言もあるけど、オネエチャンは結構こういうのが楽しい。
お茶目なご夫婦だと思う。



むー。それにしても
自分が気にしてるところを指摘されてしまった。

改めて白菜のお礼を述べ、部屋へ戻った。



大家さんたち、いない間ダンテ見てくれるらしいよと
オニイチャンに相談してみる。

「いやいや、それは図々しいだろ。
　第一向こうに怪我させたら大変だ」


仰るとおりです。
向こう”が”ではなく、向こう”に”のあたりに激しく同意。





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