水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

困ったユーモア短編集-11- お医者

2017年04月21日 00時00分00秒 | #小説

 春になるといろいろな植物が勢いを増し、果実を実らせる。藪(やぶ)に生える竹の子もその一つだ。
「おおっ! 美味(うま)そうだっ!」
 食い気(け)が先走る道脇(みちわき)はグゥ~~っと腹を鳴らしながら藪林の中を通る細い野道を愛犬とともに散歩していた。ふと、道脇の頭に昨日、行ったお医者の顔が浮かんだ。そういや、お医者にもいろいろといる。名医と呼ばれる優(すぐ)れ者から藪医者、いやそこまでもいかない竹の子医者まで、さまざま存在するのである。ヌメッ! と草むらから生えた野生感は竹の子だったが、そう不出来な竹の子医者とも思えなかった…と、道脇はまた思った。病状はその後、よくなって癒(い)えたのだから竹の子の部類でないことは確かだった。外観と内観は必ずしも一致しないのが人間だ…と道脇は、またまた偉そうに思いながら、腹の足しにしよう…と野道に出ている分だけを収穫し、帰路についた。
 竹の子の煮付けで夕飯を食べる道脇の頭は食い気だけで、診(み)たお医者の顔は、すでになかった。

                             完


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